園長より。
ブラッセル日本人幼稚園は非営利団体の「日本教育センター」が運営する私立の幼稚園です。
センターの理念は「次世代の国際人をはぐくむ」こと。また、国際人とは「お互いの違いを認識した上で相互理解を試みることのできる人」と考えています。
こういった理念のもとに、幼児教育の場である幼稚園の理念を述べてみたいと思います。
まず、幼稚園は「初めての集団生活の練習場」であると位置づけます。
保護者や周りの大人から見守られている安心感をともないながら、幼児は年齢とともに行動範囲が広げていきます。
そして、様々なものに興味を持ちはじめ、家庭を離れて公園や他のお家へ行くようになり、またそこが安心して過ごせる場所と感じれば、保護者からも離れていきます。
そして行動範囲が広くなったときに、保護者が決めるのではない自分中心の行動とそこで体験する集団生活が幼稚園だと言えます。
幼稚園では家庭生活と違い、自分ひとりでやり遂げなければならないことや解決しなければならないことに出会ったり、勝手な振る舞いが許されないこともあります。
そのような環境の中で大人に手伝ってもらい自分で問題解決をしていくことで自立心が養われると考えます。
ここで注意しなければならないのは「大人に手伝ってもらう」ということは何でも手助けしてもらうことではないということです。
例えば友達どうしでけんかになった場合、すぐにけんかをやめさせて両者を叱るというようなことは「お手伝い」ではありません。
けんかの痛みをある程度体験してから両者の言い分を聞き、そして当事者にどのようにすれば良いかを考えさせその意見を聞いてあげることが大人の「手助け」ではないでしょうか。
「適切な大人の手助けと環境」を整えた集団生活の練習場が幼稚園だと考えます。
また最近子供の自主性や自発性を尊重するという考え方から子供の要求が重要視されてきています。
子どもがやりたいということをできるだけやらせてあげようと言う考えが主流になりつつあります。
しかしその行動がどのように他の人に影響を与えるかを考えないことが増えてきているように感じます。
そこで当幼稚園では自主性、自発性に先立ってまず必要なのは、その年齢に応じた物事の良し悪しを教えることだと考えます。
最近よく教育雑誌などで「人の話を聞けない子供が増えてきている」といったことが取り上げられていますが、元はと言えば物事の良し悪しを理解していないからこそ起こる問題だと考えています。
例えば保育者が話をしている時、自分が聞きたくないと言う事を優先して勝手な発言をする子供がいるとしましょう。
この子供はまず保育者の伝えようとする内容を理解しようと努力していない点。
話を聞きたいと思っている他の子供たちの邪魔をしているという他人への敬意がないという点からも、この勝手な発言は悪いことだと教えてあげることが大人の義務だと考えています。
それから与えてもらうだけでなく子どもたちが自分で創り出す力を引き出してあげることが必要だとも考えています。
当幼稚園では「遊具や絵本なしで遊ぶ時間」があります。
この時間は自分たちで遊びを創り出す時間です。
初めのうちは何をしていいのかわからない子どもが多く見受けられますが、しばらくすると他の時間に覚えたハンカチ遊びや靴隠しなど、遊具に代わるものを使って上手に遊べるようになってきます。
このように物を与えるばかりではなく、創り出す環境を整えることも非常に大切だと考えています。
また、子どもたちだけでなく保護者の方へもいろいろなお願いをしています。
まず子どもというものは「可能性の塊」であると考えて欲しいとお願いしています。
子どもがひとりでできないことを大人が手伝って時間を短縮することができますが、それを続けているといつまでも自分でできません。
多少時間がかかっても、教えながら何にでも挑戦させてあげることが大切だと考えます。
また「これが将来子どものために良いだろう」と考えても、いつも時代が変わるように、その子どもにとって本当に良いかどうか分かりません。
それよりもいつ、どのように、どこに可能性の芽が出るか期待せず、色々な芽が出るような環境を作ってあげて欲しい」とお願いしています。
保護者が期待することをその通りにする義務は子供にはありません。
ましてや親が勝手に指針を決めることはそれこそ子供の可能性の芽を摘み取ることになるのではと思います。
デジタル時代の現代。ファーストフード時代の現代。何もかも急速に時間が流れていく現代。
だからこそ「スロー子育て」が大切なのではないでしょうか。
園長 田保千晴